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バンドハラスメント『鳴けば少女は鯉となるツアーファイナル ワンマン』ライブレポート@20180405

目覚ましく出世することを、昔の人は“鯉の滝登り”なんて言った。一気に出世することの裏に隠されているのは、実力なのか。はたまたそれは運なのか。

2015年に結成され怒涛の勢いで音楽業界の滝を上る4人組、バンドハラスメント。彼らの人気を支えているのも、はたまた運なのだろうか。それとも…。

 

 

2018年4月5日(木)、渋谷O-Crestにてバンドハラスメントの『鳴けば少女は鯉となるツアーファイナル ワンマン』が開催された。チケットはソールドアウトし、会場は超満員。バンドグッズに身を包んだファンが、いまかいまかと幕開けの時を待っていた。

SEがかかりメンバーが登場する。「人に名前を尋ねる時は…」そう井深が発すると会場中の手があがり、「バンドハラスメントです」を合図に掲げられた手が力強く握られた。さぁ、ショータイムのスタートだ。

 

 オープニングを飾ったのは、『鯉、鳴く』のリードトラックである「Sally」。のっけからキラーチューンの登場に、会場は一気に熱があがる。すでにいくつもの手が天に伸び、黒い空に輝く星のようにキラキラと瞬いた。続く「鯉、鳴く」でも、メンバーの煽りに呼応するように拳は高く掲げられる。長い前髪により井深の目は隠されているにも関わらず、髪の奥に潜む眼光から切なさや報われなさがヒシヒシと伝わってきた。

 

ステージが暗転し、ライトがつくと時計のように上を指さした井深がたたずむ。導かれたのは、来場者限定CDのトラックである「恋私くくズレる」。胸を締め付けるようなギターのアルペジオと女性目線のリリックが、さらに観客の脳内を侵していった。「君がいて」では「渋谷かかってこいや!」と井深が煽り、会場の盛り上がりを底上げ。慣れ親しんだ曲の影響なのかメンバーの雰囲気がとても柔らかく、はっこーと斉本は楽しそうにアイコンタクトをとっていた。

 

間のMCでは特別企画として、MCの裏で流すBGMを決める『BGMの裏決め選手権』を開催。斉本が「僕たち、MCで滑り散らかすんですよ~」と話すと、優しいまなざしと共にファンが何度も頷く。盛大なふりのもと「ひょっこりはん」をやり切り、会場を笑いの渦に巻き込んだ。

 

「最初から最後まで最高の1日にしましょう」という井深の宣言により始まったのは「大人になるために」。サビの部分では、会場一体となったジャンプによりフロアが上下に揺れた。「脇役」ではワタさんが前にでてきて、クラップを煽る。韻が留まることなく押し寄せてくるリリックはいつも以上に鋭く鼓膜を突き刺していく。

 

このままパーティーチューンが続くかと思われたが、引き連れられてきたのはバンハラの代名詞ともいえる「君がいて」。普段はアンコールやトリなどで演奏する曲を、このタイミングで持ってくる彼らの姿は「これが俺らの東京ワンマンだ」と誇示しているようだ。ラスサビ前では今まで聴いたこともないような大合唱がライブハウスに響き渡る。それをかみしめるように、井深の視線は天を仰いでいた。

 

 

感動的なムードが包むなか、井深とワタさんによるアコースティックコーナーへと移り変わる。演奏されたのは「9月4日」と「Sally」のアコースティックバージョン。インストアライブツアーで鍛えられたのか、ギター1本と歌だけとは思えないほど表現力が豊かである。あまりの完成度の高さに観客はクラップすることを忘れ、ただただ恋い焦がれるようにステージを見つめていた。

 

はっこーと斉本が登場し、2度目のMCコーナーに突入。手の込んだパワーポイントに重大発表の文字が映し出され会場全体が息をのむ。ほとばしる緊張感をぶち破ったのは「井深とワタさんの改名宣言」。まさかの発表とコミカルな二人のトークに、さっきまでのしんみり感は気づいたら吹き飛んでしまっていた。

 

彼らのラジオ番組そのままのようなポップな空気をガラッと音楽の世界に引き戻したのは「一人隠れんぼ」だ。泣かせ曲を聴かすことができ、躍らせる曲で盛り上げて魅せるのは井深のカリスマ性のなせる業だろうか。その後も「BRiNG ME DOWN」「現実ハラスメント」とハイテンションな曲が続いていく。井深が深くブレスを吸い言葉を紡ぐように歌い始めたのは「解剖傑作」である。低音から高音まで使う歌メロ、キメの精度が試されるリズム隊、高速で変則的なギターフレーズと、各々のプレイヤーとしての力が試される曲をこのタイミングに持ってくる彼らに、バンドとしての強さを見せつけられる。「ウォーウォー」という会場中のシンガロンを、井深はその手で力強く握りしめていた。

 

ラストを飾ったのは、『エンドロール』のリードトラックである「サヨナラをした僕等は2度と逢えないから」。この日はワンマンライブ仕様ということで、エレキギターアコースティックギターを弾きわける形でのパフォーマンス。ワタさんの柔らかい指弾きにより、泣かせに来ているギターソロがさらに人々の涙腺を刺激する。曲間で井深は「あなたたちの心を愛することができる。あなたたちとだったら、どんなバンドも越えていける。あなたたちとだったら、どんなステージにも立てる」と語った。そして、その締めくくりにはマイクから口をはずし、地声で「来てくれてありがとうございました!」と思いを届けた。そこから曲が再開されるまでの間は数秒だったのだが、ステージに立っている4人は今日という日を噛みしめているようで、その表情を眺めていると時が止まっているかのよう。心から全身全霊のアクトをやりきり、本編を締めくくった。

 

メンバーステージから去ったあとも拍手はなり続け、アンコールに転じた。「みなさん今日やってない曲、なにかないですか?」という井深の問いをうけ、パーティーチューンである「アリバイパリナイ」が披露される。観客の手は上下左右に空気を切り、メンバーと一丸となって特別な夜を創りあげたのだった。

 

MCで井深は「東京でワンマンをするにあたり、自分たちらしさを考えた」と語っていた。人の目を惹くルックスもエモーショナルなロックも、たしかに“バンハラらしさ”なのかもしれない。でも、本当の彼ららしさというのは“誰もひとりにしないエンターテイナー”ということなのではないだろうか。お客さんのことを考えつくしたライブ内容、彼らが発することばのひとつひとつ、精一杯に音楽を届けるライブパフォーマンスにそれを感じずにはいられなかった。そう、彼らの人気を後押ししているのは紛れもない実力なのだろう。

エモーショナル日本詞ロックバンド、バンドハラスメント。「逃した魚は大きいぞ」なんてよく言うが、この春に解き放たれた鯉は大きいどころでは済まないと思うのだ。

 

※バンド側非公式の個人のレポートになります